以上、顔と心の関係について述べたことはそのままオモテとウラの関係に妥当する。すなわちオモテは見えるが、ウラはオモテのかげに隠れている。オモテはしかしただオモテだけを現わすのではなく、またウラを隠すためだけのものでもなく、ウラを表現するものでもある。あるいはウラが表を演出していると云ってもよい。であるから人はオモテを見る時、ただオモテだけを見るのではなく、オモテを通してウラも見ている。いや、オモテを見るのはもっぱらそこにウラを見るためだという方があたっているかもしれない。
このようにオモテとウラは概念的にはっきり区別されるが、その実、相互に密接な関係にある。すなわちオモテなくしてウラなく、ウラなくしてオモテなく、両者は文字通り表裏一体である。オモテとウラは別々に存在するのではなく両者相俟って一つの存在を形造る。一つの存在を認識する上でオモテとウラの区別が生ずるのであって、この二つは分裂ではなく、むしろ統一を示唆すると云うことができるのである。(pp14-15)
「表と裏」 土居健郎 1985年 弘文堂
著者 土居健一郎(どい・たけお)
1920年東京生まれ。東京帝国大学医学部卒業。精神科医、精神分析家、医学博士(東京大学)。東京大学名誉教授、聖路加国際病院診療顧問。『漱石の心的世界』、『「甘え」の構造』他、著書多数。2009年没。



